Rioさんが、この作品の感想としてイメージソングを作ってくれました。
是非一度、BGMとしてお聴き下さい。


グツグツグツグツと煮え立つ鍋。
そして、その鍋の前で鼻歌を歌う一人の少女。
年の頃は10歳くらいだろうか?
――まーだかな、まーだかな?
料理をするのが嬉しくてたまらないのか、ニッコニッコと満面の笑みを湛えながら鍋の蓋を開けて中の様子を見たり、火加減を見る為にコンロを覗いたり……。
やがて、鍋から溢れてくるおいしそうな匂いを確認すると、クルリと振り返って、
「ママー、出来たよー!」
「はいはい」
元気な声につられたように、少女の母親がキッチンに入ってくる。
「ふーん、いい匂いじゃない?」
少女は、へっへーっと笑いながら、小皿に取り分けた自信作を母親に差し出した。
母親は口に含んだ料理をじっくり味わった後、
「うん、おいしいわよ。上出来、上出来」
そう言ってウィンクする母親に、少女は笑顔でピッと親指を立ててみせた。
「ふーん、これがねぇ……」
ひとりごちる母親に、少女が訝(いぶか)しげな視線を送る。
それに気付いた母親が、アハハと笑いながら応える。
「ごめんねぇ。ちょっと思い出したことがあったのよ」
ん?っと不思議そうな表情の少女に対して、母親が言葉を繋ぐ。
「実はパパのことなんだけどね――

だいぶ前、まだ少女が母親の胎内にいた頃。
少女の父方の祖母が身重の嫁を気遣い、家事の手伝いをしてやろうとこの家を訪れていた。
息子の為にと久々に腕を振るった祖母の、数々の御馳走が並んだ食卓を見た少女の父親が冗談めかして、
「お、美味そう。それじゃ、日本一美味い飯を食べさせてもらおうか」
「ふーん?」
その言葉を耳にした当時の母親が、悪戯な表情で意地悪な質問をする。
「それじゃ、私の料理は?」
「世界一美味い」
父親はニッコリ笑いながら、切り替えした。
あっさりと躱(かわ)された母親が、咄嗟に思い付いたもう一つの質問を投げかける。
「じゃ、宇宙一は?」
「それは、これから生まれてくる娘の為に取ってあるんだ」
父親は今度もあっさりと、大きくなった母親のお腹を見ながら答えた。
…………

「なんてねぇ。ホント、カッコつけだったんだから」
などと、思い出を語りながらニヤニヤしている母親が、情けないものを見る目で自分を見詰める娘に気付く。
「なによぉ?」
「……ふつう『宇宙一……』なんて、そんな質問する?」
「いいじゃないの!あの頃はママも若かったのよ!!」
それでも、フーンっと醒めた目付きで母親を見ていた少女だが、急にパッと顔を閃かせて、
「ま、いいか。
ね、パパ、喜んでくれるかな?」
「当たり前じゃない。あなたの作った料理だもの。
さ、早く持っていってあげなさい」
うん!と元気良く応えた少女が、料理のよそられた器を両手で持ちながら、スリッパをパタパタと音立てて別の部屋へ走り込んでいく。
――ホント、楽しみにしてたんだから。
その後ろ姿を見て、母親は微笑んでいた。

数分後、明るい笑顔を振りまく男の写真の前で、器から立ち上る一筋の湯気がゆらゆらと揺れていた。


Fin


1998.11. 16
Written By T−2000




後書き


常連の皆さんも、初めての方も、ども、T−2000です。
今回、唐突に発表したこのショートショートですが、如何でしたか?

実はこの作品、僕の生まれて初めての短編です。
自分の読書歴が長編小説、しかも大河物やシリーズ物に偏っているせいか、
普段思い付く物語のアイディアは、必ず長編シリーズ物用に練り上げてしまうと言う悪癖があります。
(だって、星新一だってろくに読んだ事無いもんなぁ。)

そんな訳で、無いに等しい創作歴の中でも、短編を書こうとした事が一度も無い自分なのですが、
それじゃ何故、突然これを書いたのかと申しますと……。

とある日の夕げ、T−2000はモシャモシャと飯をかっ食らっておりました……
――んー、今日のこれ(おかずの一品)結構美味いなぁ
等と考えていると、その脳裏に良くあるホームドラマのワンシーンが浮かんでまいりました。

『さー、○○ちゃん、ママの作った美味しい美味しいご飯ですよ』
『わー、ママありがとう。やっぱりママのご飯が一番だね!!』
『……あなた、わたしとお母様とどっちのご飯が美味しいのかしら?』
『え、う〜んとね……』
『ま、☆☆さん、なんて事を。○○ちゃんが困ってますわ。
それに、そんな事は一々聞かなくても判りきってますもの』
『お母様は黙ってて下さい、わたしは○○さんに聞いてますの。
○○さん、どっちなのか答えて下さい!!』
『ママァー!!』
『まあまあ、可愛そうに。☆☆さん、怖いわねぇ。
泣いちゃ駄目よ。今日はママが一緒に寝てあげますからね』
(以上、0.5秒ほど)

――寒い、寒すぎる!!(今書いてても、色んな意味で寒い……)
――頭の中で考えるにしても、もうちょっとましな内容はないんか?
などと自問自答しつつ思い付いたのが作中にある、
「日本一、世界一、宇宙一」
のやり取りの部分でした。
その後自室に戻って、とある方の同人イラスト集を拝見した時に、
一気に残りの部分が完成しました。
その方のキャラクターで勝手に喋って、勝手に動いてくれましたから、
こちらとしては非常に楽でした。
そんな訳で、この作品は一方的にそのイラストレーターさんに捧げさせて頂きます。
大城さん、見てます?
あなたの事です。
皆さんも、大城さんのHPにイラストを見に行かれては如何でしょうか?
何と言うか、心が暖かくなるようなイラストがたくさんあります。


大城ようこう
「憧憬画廊」
http://www.ed.noda.sut.ac.jp/~j6397018/
(ちなみに、このHPのリンクページからでも行けます。)


それにしても、本編より長い後書きってのは……。

1998.11.17
Written by T−2000



この作品の感想を頂けると嬉しいです。
メール、掲示板、形は問いません。
お気軽にどうぞ。
(って言うか、頂戴頂戴!!)