TeX は Stanford 大学の Donald Ervin Knuth 教授が開発した 組版システムです. 自分の著書の印刷品質が落ちていることを不満に思った教授が 出版社に理由を尋ねると, 従来の活字組版システムにかわって, コンピュータによる組版システムを導入したためだという返答でした. コンピュータ数学者である Knuth 教授は大きなショックを受け, TeX の開発を決意したといいます.
TeX はそのまま書籍の出版に使用できるほどのシステムとなりました. 特に数式の美しさは,今でも他のシステムを遥かに上回っています. さらに徹底主義者の Knuth 教授は, フォントまで自分で開発してしまいました. TeX で使用するフォントは METAFONT というシステムを使って生成します. また Computer Modern Font シリーズは TeX と一緒にフリーで配布されています.
TeX は一種のプログラミング言語です.
例えばパスカルの定理(別名三平方の定理)を出力するには,
$x^2 + y^2 = z^2$ と入力します.
マクロ定義や条件判断も備えています.
TeX はたいへん強力ですが, 複雑で使いこなすのは困難でした. そこで Digital Equipment Corporation の Leslie Lamport が LaTeX を開発しました. LaTeX は TeX の強力なマクロ機能を使用し, TeX の上で使用するマクロ集となっています. したがって LaTeX を使用するには TeX が必要です.
Lamport は LaTeX について,以下のように述べています. 「TeX はスポーツカーで,LaTeX はファミリーセダンだ. TeX のようなアクロバットはできないが, 安全でしかも十分な性能を持っている. その上ベースは TeX であるから, 必要なら TeX の機能を直接使うこともできる.」
現在では TeX を直接使用する人はほとんどおらず, 大部分の人は LaTeX を通して使用しています. LaTeX は文書の論理構造を記述して形をとっています. HTML のような形式だと思ってください.
TeX は英語用に開発されましたが,その性能の高さから, 各国で他の言語への移植が進められました. 日本では NTT とアスキーがそれぞれ独自に移植を行ないました. したがって日本語に対応した TeX は二つあります.
NTT の jTeX および jLaTeX は, 英語版との互換性を重視して開発されました. 日本語は英語より多くの文字を必要としますが, jTeX では日本語フォントを複数のフォントに分割することで対応しています. 使用するフォントファイルの数は増えますが, 一度処理を済ませてしまえば, 英語版のソフトを使って表示や印刷ができます (もちろんフォントの追加は必要ですが…). すでに英語版 TeX を使用していた 大学や研究機関を中心として普及していきました.
一方,アスキーの日本語 TeX および日本語 LaTeX は 独自の拡張を施すことで,文字数の違いに対応しました. 英語版のソフトをそのまま使用することはできませんが, 明朝体・ゴシック体それぞれ一つずつしかフォントファイルを使用しません. また縦書きに対応した pTeX および pLaTeX を開発するなど, 独自の拡張を進めています. こちらはパソコンの個人ユーザが中心でしたが, 現在では大学等でも広く普及しています.